贅6征伐省
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2:名無しさん@お腹いっぱい。
25/11/17 17:30:12.17 Xix8pA6F0.net
菊師団(九州福岡兵)と安師団(近畿京都兵)
『菊』は乙装備で山砲は二門しかないのに『安』は四門を持つ甲装備である。
「ちきしょう。いいものをもってやがる」
横目で睨んで舌なめずりする兵隊たちはそこで意味ありげに目をかわした。
ところが『菊』の一群をみて今度は『安』の兵隊が奇声をあげておったまげた。
「あきまへん、あきまへん」
脅えたような声であきまへんを連発している。
「なにがあきまへんだ!」
スクラップが立ち止まって一喝すると、わっと左右に逃げ散った。
その夜ランチャガ付近の夜営地で山砲大隊の兵数名が『安』の宿営地を襲い兵器、弾薬、糧秣をぶん獲った。山砲大隊ならまだしも敗残の各部隊があっちこっちで掠奪をしたから問題になった。
『安』の庄子参謀が『菊』の三橋参謀(幕臣の剣豪三橋虎蔵の孫、東京出身)にねじこんだというもはこのときである。
「三橋、いくらなんでもお前の師団はひでえ!泥棒の集団だ」
「なにが泥棒だ。お前盗まれてたのを見ていたのか」
「いや見たわけじゃないが兵隊が苦情を持ちこんで来るからほってもおけん」
「見もしないで泥棒呼ばわりは許せん」
「いや兵隊が言ってた。炊きかけの飯盒を持っていこうとするから『もしもしそれまだ煮えてしまへんでエと言ったけど持っていってしもうた。参謀殿えらいこっちゃ』だってさ」
言いながら庄子参謀は笑いだしてしまった。
「俺は菊だ。お前らがこんな上等なものをもってるのはもったいねえ。俺たちによこせ」
スクラップの敗残兵はそう凄んでみせて小銃から拳銃、米までごっそり強奪してしまった。
このため『菊』は後々まで泥棒部隊とありがたくないニックネームを頂戴することになった。しかし泥棒といっても概念が違う。
「お前たちのような(関西の)腰抜けでは新編第一軍に歯が立たない。だから武器を俺たちによこせ」という戦闘意欲のあらわれであった。
『菊』の将兵が大原生林の樹海から辛うじて脱出した直後そこにみたのは素晴らしい装備をもちながらも戦闘意欲に欠けた集団の姿であった。
マラリアにやられたから入院させてくれとか足にマメができて歩けないとか泣き言をいって全線へ出ようとしない(関西の)兵隊たちである。
『菊』の将兵は怒髪天を衝く思いだった。これだけの武器弾薬があるならなぜ俺たちに支給してくれなかったのだ。兵糧さえ与えてくれたら勝てたのだ。歯ぎしり、無念の涙をのんだフーコンの戦いであったのに…
どうせ戦いに負ければ全部敵の手に渡ってしまう。それなら俺たちが分捕ってもう一度戦ってやる。
兵隊たちはそう言いあって次々に闇の中に飛び出していくのだ。
平正隆少尉(福岡県八女市出身)はいくどか静止しようと考えた。けれども無念やるかたない兵の気持ちを思うととても止める気にはなれなかった。
「それにしても…」
と平はそこでさっき聞いた大隊長の言葉を思い出した。
『安』はモウガンまで行軍してくる間に過半数の兵が落伍していたという。同じ日本人、同じ兵隊でありながらなぜこうも違うものかと精神力の差をまざまざ見せつけられた気がしてならなかった。
(光人社『菊と龍』P69~72,130)
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